練習 1

 いつもの陰鬱な会議だった。もうどのくらい時間が過ぎたのかよくわからなくなっていた。いつだって「彼ら」は安全な方法をとりたがる。まるで自分たちの黒い硬質な肌のように、仕事や概念までカチカチに決めたがる。すき間なくピースを詰めていくようなパズルなんか、『イーバゥ』にいたころには僕だってよくやったけど、これじゃ毎日それやってる気分じゃないか、まったく身が持たんよなぁ…
 そうやって不平不満を頭の中でぐるぐると回していると、いつのまにか話の矛先は僕のほうに向いていて、僕はすこし焦ってログを読むことになった。
 「『3族』の人たちのニーズについては、この間十分議論を交わしたと思うんですが、やはり、より「つややかな肌」が求められているようだ、と私は思います。ここ10ノードほど、『コリエル』のドラマであるとか、やっぱよく見られていますから、十分にニーズは熟成されたんじゃないでしょうか。やはりそっち方面の異種間交配の設備拡充がいいんじゃないですかね。契合他社も手をかけるって話ですし。外的環境の変化はもう打ち止めでしょう…あ、これは私のライフスパンから見た話ですけど
 そう言うと、彼らは「さもありなん」といった表情をしながら、また僕らには聞こえない波長で『会議』をしはじめた。表情といっても、彼らのほとんどは2族と3族だったので、ほとんど表情は動いたりしないんだけど。端末上に流れていく彼らの会議のログを見つめながら、またぐるぐると考えをめぐらそうとしたとき、小さな声で話しかけられた。
 「このアリアートめ」
 案の定だ。アーデルが僕をじっとにらみつけていた。こいつはコリエルだからな。怒るのも無理はない。
 「お前だって半分アリアートじゃねえかよ」
 「まぁな」
 そう言って、アーデルはすこし皮肉に笑った。こればっかりはどうしようもならないからな。
 「…なぁ、今日の仕事あがったら、ひまか?また一杯ひっかけにでもいかないか」
 「しょうがねぇな。お前ほんと好きだよな。…これから俺出先だから、また終わったら連絡するわ」
 おう、とでも言おうとしたとき、急にアーデルが顔を俯けたので、ふと視線のほうを見ると、テーブルのメリアンドの一人がアーデルのほうを向けていた。やっぱりエレンデゥだ。3族のこいつは、自分の黒い石版のような体に反して、やわらかいものにご執心のようで、アーデルにこの半ノードほどラブコールを送っているのだ。なんにせよ、アーデルがやりづらそうにしているのは面白いことだ。…


続きます。
もうちょっと後で別エントリとしてまとめるっす。よみにくい。

語句紹介

  • メリアンド(複数形:ラメリアンディグ)
    • モノリスのような体をした種族。三つの性がある。
  • アリアート(複数形:アリアルテス)
    • 人間と同じような体をした種族。目が多きい。一般には灰色の肌。
  • コリエート(複数形:コリエルテス)(コリエルはアリアートが呼ぶ蔑称)
    • 人間と同じような体をした種族。情熱的で短絡的。